暦の上では立春を過ぎましたが、まだまだ風の冷たい日が続いております。皆様いかがお過ごしでしょうか。
先週の木曜日と金曜日、私は仕事の出張で広島と岡山を訪ねてまいりました。
今回の出張がいつも以上に彩り豊かに感じられたのは、普段の業務ではなかなかじっくりと腰を据えて話す機会のない二人の編集者と道中を共にしたからです。
そして、広島や岡山で出会ったさまざまな皆さんから興味深いお話をたくさん伺うことができたからです。
★広島の酒場の対話から生まれた「想定外のパワー」
広島のクライアント様訪問を終えた夜、まずは地元の味を……ということで牡蠣の店を選んだのですが、ここで可愛らしい事件がありました。
同行した編集者の女性が「実は、これまでの人生で一度も牡蠣を食べたことがないんです」と告白したのです。
広島に来て牡蠣を食べない手はありませんが、無理強いもいけません。
そこで「それなら、まずは抵抗感の少ないカキフライから挑戦してみませんか」と提案し、みんなで一皿を囲むことになりました。
揚げたての衣をサクッと噛み締め、「あ、美味しい!」と顔を輝かせる様子を見て、私も自分のことのように嬉しくなりました。
お酒が進む中で、同行した編集者の彼がふと漏らした、わが子を思う呟き。
あるいは、バスケットボール観戦の躍動感あふれる話。
普段なかなか聞くことのできない、こういった話を私は大切にしたいと思います。
「飲みニケーション」は時として無駄なものと思われがちですが、想定外の出会いやきっかけを引き出してくれるものと信じています。
こうした人間臭いやり取りから書のヒントを授かるものです。
誰かのために書き、誰かの言葉を預かる。
その背景にある豊かな物語こそが、墨に深い陰影を与えてくれる。
私にとって、この道中の語らいは何物にも代えがたい「心の耕し」の時間となりました。
★お好み焼きの「焼き手」に学ぶプロの矜持
広島で改めて感銘を受けたのが、お好み焼きの奥深さです。
同じ材料を使っても、焼き手が変われば味は劇的に変わるというのです。
決して「良い材料を揃えれば何でも美味しくなる」わけではなく、たとえ材料がそれなりのものであっても、焼き手の熟練の技や火の通し方、その「作り方」へのこだわりによって、驚くほど旨い一皿が生まれる。
旨いお好み焼きには、総合的な技術と、その職人の人となりが如実に現れます。
私の書も、そうありたいと願っています。
「伊藤雲峰が書いたから、この味になる」と言われるような、唯一無二の存在感が出せるといいなあ〜。
お好み焼きの鉄板の前で汗を流す職人のように、私もまた、紙という舞台の上で「最高の一行」を焼き上げることに心血を注ぎたいと思います。
そう強く感じた夜でした。
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【お知らせ】第1回二希会書展に出品します
長年取り組んでいる木簡調の作品を出品いたします。銀座へのお出かけのついでに、ぜひご高覧くださいませ。
●会期: 2026年3月3日(火)〜 3月8日(日)
●時間: 11:00 〜 19:00(最終日は17:00まで)
●場所: 東京銀座 鳩居堂画廊 4階 (住所: 東京都中央区銀座5丁目7-4)
●在廊予定: 3月7日(土)・8日(日)※会場の都合上、事前にご連絡いただければ会場にてご挨拶させていただきます。
【今後の書会スケジュール】
★詳細・お申し込み:https://itouunpo.com/syokai/
【名古屋】第97回 大島屋書会
日時: 2026年2月22日(日)※今月は第4週です
会場: 大島屋(名古屋市西区名駅2-20-30)
時間: 第一部 13:30〜【満席】 / 第二部 16:00〜18:00【あと2席】
参加費: 2,500円(ドリンク付・道具不要)
【三重・桑名】第75回 MuGicafe書会
日時: 2026年2月14日(土)13:30〜15:30
会場: MuGicafe(三重県桑名市京町42)
参加費: 2,500円(ドリンク付・道具不要)
【オンライン・特別講座】
2月28日(土)10:00〜12:00 『第56回 オンライン書会』(Zoom) 参加費:2,500円
2月28日(土)14:00〜16:00 『第15回 藤丸書院』(リアル+Zoom) 参加費:3,000円 詳細:https://itouunpo.com/info-kyojyo/
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★終わりに★
旅の締めくくりに、広島で旧知の編集仲間とスナックを訪れました。
そこでたまたま隣り合わせ、色々と興味深いお話をさせていただいた50代半ばの男性の言葉が、今も耳に残っています。
彼は長年勤めていた会社を辞め、今はフリーランスのデイトレーダーとして独り立ちしているといいます。
「なぜ、その大きな決断を?」と尋ねた際、彼は友人の早すぎる死にまつわるエピソードを静かに語ってくれました。
「いつ死ぬかわからない。ならば、一番好きなものから食べよう」。
その人生観の根本的な転換が、彼を安定した組織から解き放ち、自らの足で立つ道を選ばせたのだそうです。
この哲学は、私の書家としての在り方にも鋭く響きました。
無難な配分で予定調和の作品を仕上げるのではなく、今この瞬間に心血を注ぐつもりで筆を運びたいと思います。
身近な仲間との深い語らい、そして旅先での予期せぬ出会い。
それらすべてが私の表現の幅を広げ、新たな墨色を生み出してくれているように思いました。
それでは、皆様もどうぞ暖かくしてお過ごしください。伊藤雲峰でした。

